メトロイドヴァニアとは
開発者の坂本賀勇氏がメトロイド開発当時を振り返りインタビューで述べたのは リソースと納期、ゲーム容量などの制約の中でゲームを成立させるため苦肉の策として 編み出された探索性というデザインだった。(メトロイドの当時の開発状況について) どこに行っても同じ柄の背景が続いていて、 どこに行っても同じことしかできないような状態だったんです。 キャラクターが動くだけで、ゲームデザインがまったくできていなかったんですね。
「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」発売記念インタビュー 第5回「メトロイド篇」
しかしこの苦境から本記事で紹介する「メトロイドヴァニア」というジャンルの 源流となるメトロイドシリーズが生まれたというのは数奇なことで、 リソースの制約を面白さに転換するクリエイターの創造力には脱帽するよりない。
「メトロイドヴァニア」はこの任天堂「メトロイド」と コナミ「悪魔城ドラキュラ」(英語版はCastlevania, キャッスルヴァニア) という2つのゲームシリーズのコンセプトを踏襲した2Dプラットフォーマーゲーム (横スクロールとも呼ばれる) のジャンルの総称だ。
メトロイドは外部惑星を舞台としたSFアクション、 悪魔城ドラキュラはヴァンパイアハンターを主人公とした ゴシックホラーと外見やヴィジュアルデザインは大きく異なる。 しかしそれにもかかわらずこの2つが1ジャンルにまとめて呼ばれるのは、 「探索アクション」という根底に共通する概念があるからである。

2Dプラットフォーマーは伝統的には 「スーパーマリオシリーズ」「スーパーマリオシリーズ」「星のカービィシリーズ」 に代表されるように"ステージクリア"が体験のかなめとなっている。 ステージクリア型ゲームの典型的な流れは次のようなものとなる。
- ステージを(左から右などに)進んでいく
- 途中に敵がいるので、倒すか避ける
- ステージの終わりにクリアフラッグがあるので取る
- たまにボスのいるステージがいるので、倒す
- ステージを歩き回る
- たまにアイテムがあるので集める
- たまにイベントやボス戦がある
とはいえメトロイドヴァニアではステージやクリアの考え方を 完全に排しているわけではない。 マップのセクションごとに雰囲気が切り替わったり、変わり目に ボスや重要アイテムを配置したりすることは行われるからだ。 そのためステージクリア型と探索型のアクションゲームは きれいに線引きできるわけではなく、スペクトラムのように 連続な分布の中でゲームごとに「これは探索寄りだな」というような 雰囲気を持っていると考えるのが良い。 そもそも悪魔城ドラキュラシリーズでも初代など探索要素の薄い ステージクリア型のタイトルもあったりする。
これらの各要素の比較を表にまとめた。
ステージクリア型 | メトロイドヴァニア | |
ゲームの進行 | 線形(左から右、など) | プレイヤーの探索に応じて |
報酬 | ステージのクリア | マップ埋め・パワーアップアイテムなど |
レベル・経験値要素 | あまりない | しばしばある |
各ステージのデザイン | 独立 | 有機的に接続・関連 |
やりこみ | 縛りプレイやタイムアタック | 左記に加え、アイテムコンプリート |
メトロイドヴァニア vs オープンワールド
2Dにおけるメトロイドヴァニアと同じくらい言及されるのが 3Dにおけるオープンワールドである。 これらはゲームの進行を線形から非線形に拡張するという点で共通点がある。 ではメトロイドヴァニアとオープンワールドを同じものが2Dと3Dで 呼び分けられているのだろうか?これは難しい問題ではあるが、メトロイドヴァニアとオープンワールド にはプレイヤーの体験に関してまだ違いがあるように思う。 オープンワールドでは世界そのものを楽しむことが体験の重要な要素となっている。 例えばゲームのワールドの中でその辺を歩き回って写真を撮ったり、釣りだけをして1日を潰してしまったり したことがないだろうか。このような楽しみ方は2Dという次元の制約からくる閉塞感のある プラットフォーマーゲームではなかなかないのではないかと思う。
逆にメトロイドヴァニアであるような"1マス分だけ通過できる隠し通路" のようなものは3Dでは難しい。なぜならプレイヤーが3次元世界の各点を しらみつぶしに調べるようなことはできないからだ。 このような違いから2Dプラットフォーマーではゲームの線形進行という制約を 取り払ってもプレイヤーの体験が開かれたものにはならず、 ここにオープンワールドとメトロイドヴァニアの違いがあるというのが筆者の見解だ。
インディー製作者はなぜメトロイドヴァニアを作るのか
製作リソースを絞って長時間遊べるゲームを作ろうとすると自然と メトロイドヴァニアになるのではないか?というのが私の仮説だ。 つまりメトロイドヴァニアはゲームとしてのプレイ時間 / 製作費の比率、 (製作者からみた)コストパフォーマンスがよいというのがリソースの限られた インディー製作者にメトロイドヴァニアを好む理由でありそうだ。メトロイドヴァニアと相性の良いもう一つの要素、ソウルライクも同じ理由で説明がつく。 ソウルライクも定義が難しい用語ではあるが、 高難易度でプレイヤーがゲームオーバーを繰り返しながら攻略方法を模索していく いわゆる"死にゲー"であることが大きな特徴の一つだ。 これもコスパアップに有効な施策であるため「メトロイドヴァニア+ソウルライク」で シナジーがあると言える(その分敷居も高くなるだろうが)。
メトロイドヴァニアのゲームの事例紹介
「メトロイド」「悪魔城ドラキュラ」以外にも探索性にフォーカスした作品は、 数多くあり、ものによっては「メトロイドヴァニア」という用語が生まれるよりも前に リリースされているため、そうは呼ばれていない。洞窟物語
Windows向けフリーゲームだ。2023年現在でも国内フリーゲーム最高峰として あげる人も多い名作である。 明確なシナリオやゴールはゲーム開始時は明かされず、 冒険が進むにつれ世界と主人公ロボの謎が明かされていく、このような展開は 探索型と相性が良い。また武器を獲得・強化できる要素がダンジョン内で見つけられ、 またレベリング要素として敵を倒すたびに経験値アイテムを落とし、 それで武器が強化される・またダメージを受けるたびに経験値が失われ、 経験値アイテムを再回収するまで弱体化されるというシステムが導入されている。
リンク
星のカービィスーパーデラックス より 洞窟大作戦
スーパーデラックス (SDX) は星のカービィシリーズのSFC作品で、 個別のシナリオを持ったサブゲームがオムニバス形式に盛り込まれているのが特徴だ。 "SDX"も全体としては他のカービィシリーズに沿ったステージクリア型 アクションに仕上がっている。しかしオムニバスの中でサブゲーム「洞窟大作戦」だけは メトロイドヴァニア的な探索アクションゲームになっているといえそうだ。 洞窟大作戦だけの独自システムとして、ステージ内に50箇所のお宝 アイテム (フレーバーとして値段が付いているがゲーム内の効果はなし) が 隠されており、これを全て集めないと100%クリアにはならないのだ。 「銀河に願いを」も探索性がフィーチャーされているが、 各ステージが切り離されている これらはどちらもメトロイドヴァニアに分類すべきかの ボーダーのひき方は難しい、境界的なケースといえそうだ。
リンク
へべれけ
1991年発売のFCソフト、「いっき」シリーズで知られるSUNSOFT製作。 現代のメトロイドヴァニアはダンジョンやホラーの雰囲気を纏いがちであるため、 ゆるキャラめいたコミカルなキャラと世界観の作品は貴重だ。 発売当時は時代を先取す過ぎていたためか、 それほどの人気が出なかったというのが個人的には残念である。リンク
ゆりかごのそら
比較的マイナーな同人ゲームであるが、私が知られざる名作であると考える。 「ゆりかごのそら」もここで紹介したい。 2015年リリースの東京大学同人ゲームサークル ノンリニア製作。 ドット絵はきららマンガ「ステラのまほう」でも知られるくろば・U氏が担当した。 氏はリョナ系のドット絵での評判もあり個人的にも期待が大きかった笑主人公は獣耳少女のクーニャで、さらに物語が進むにつれ 機動性の高い狐少女「ナツメ」としばらく羽ばたける鳥少女「トト」が 進行につれ仲間となる。アクション性もさることながらシナリオも 見どころのおすすめの作品である。
リンク